賃上げしてもしなくても厳しい時代

今年も春闘がはじまった。
うちの会社も労働組合があり、毎年この時期は労働条件の改善に向けての組合側の要求がある。
 
その組合側からの要求だが、今年は明らかにこれまでとはモードが変わったように感じている。
それの違いは何かというと、ベースアップによる賃上げ要求の強さである。
 
デフレ下であった、平成時代は、いわゆるベースアップという言葉は死語とした扱われていた。
物価が上がるどころか下落傾向にある中、うちの会社でも少なくともここ20年くらいはベースアップはなし、定期昇給だけを毎年行ってきた。
 
ところが、ここ数年物価は上昇。それにあわせて、ベースアップを求める声も多くの企業で聞かれるようになってきた。
実のところ、うちの会社の昨年の春闘でもベースアップの強い要求があるのかなと思っていたが、このときはそこまでではなく、それでも少しはベースアップをしてほしいという要求があり、少額ながら数十年ぶりにベースアップを行った、という感じであった。
それに対して、今年は明らかにモードが違っており、組合側からは少々のことでは引かないぞという姿勢が見られるというわけである。
ここに来て、大企業だけでなく、中小企業にも強い賃上げ要求の波が押し寄せていることをひしひしと感じている。
 
さて、このベースアップ、経営側にとっては、一度上げると今年だけでなく、今後ずっと固定費が上昇することを意味する。
例えば、今回月額10,000円の賃上げを行ったとする。すると、年間で120,000円。100人従業員がいれば、1,200万円固定費アップになるのだが、これは今年の固定費アップだけではなく、来年も再来年も毎年今よりも1,200万円の固定費アップになる。これはあくまで本給だけの上昇分で、法定福利費や残業代にも効いてくるので、さらに費用はかさむ。
利益率がわずかしかない中小企業にとってはかなり大きな負担となる。
 
一方で、賃上げができないと、今度は採用に苦戦することになる。自社だけ賃上げしなければ、当然その分給与の差が生まれ、他の会社に人材をとられてしまう。さらには採用できないだけでなく、隣の会社が賃上げするのであれば、そちらに転職すればいいとなって、現在いる社員の流出にもつながりかねない。
利益が確保できないから賃上げを見送れば、今度は人がいなくて事業を継続できないなんてことになりかねない。
 
こうなると、どちらに進むもなかなか険しい道になる。
ベースアップによる賃上げを実行した結果、それだけ利益が削られ、いずれ事業が成り立たなくなるか、賃上げができずに人が集まらず事業を継続できなくなるか。今後こういった会社が増えてきて、いわゆる安い労働力が手に入ることで事業を続けてきた企業が継続できなくなる、そういう時代に突入していくのだろう。
幸い、今はどこも人手不足。倒産する企業が少々出たとしても、その労働力はいくらでも吸収できるだろうから、大きな混乱には至らないと思われ、政府からの救済もあまり期待はできない。
そんな企業淘汰の時代がやってくるかもしれない、と思った次第である。
 
ということで、賃上げするも、しないも、どちらも大変だ、という話でした。