新型コロナウイルスに関して、いろいろな記事を読むようにしているが、その中には専門家が書いた記事もあれば、インタビューしたものを編集した記事もある。
総じて思うのは、医師や研究者の書いた文章は読みやすいし、わかりやすい(そういう先生の文章を選んでいるということもあるのだろうけど)。専門的過ぎる話に拡散せず、ちょうどいい塩梅で書いてくれる専門家が多いので理解が深まる。
また、編集者が専門家にインタビューしてまとめた文章も、編集者がいいと、そこが知りたかった!という内容を引き出してくれ、こちらも理解が深まる。
そんな中、後者のスタイルで、日経ビジネスの山中記者が医師の峰宗太郎氏にインタビューしている記事があった(リンクは全3回のうちの1回目)。
峰宗太郎氏はホリエモンのYouTubeで存在を知り、以後フォローしていろんな記事を読んできたが、いつもわかりやすく解説してくれており、一方の山中記者は、マツダの元会長にインタビューした書籍「マツダ 心を燃やす逆転の経営」を読んで、そのインタビューでの引き出し方や編集する力がすごいなと思っていたので、これは間違いない組み合わせだと思って、さっそく読んでみたのだが、期待に違わぬ内容だった。
内容は記事を読んでもらえればと思うが、ここではとくに専門家にインタビューするタイプの記事において、どういった文章が読者に伝わるのかについて私なりに考えてみたい。
この問いに対する答えを一言で表現すると、インタビューする側が「プロの素人」であることに尽きるのではないかと思う。
インタビューする側は、当然のことだが、インタビュー対象者に比べると専門性は低い。専門性は低いのだが、素人である読者を代表して、素人がわかっていることとわかっていないことを整理して質問することで、読者の知りたいという欲求に答えるプロでなければならない。この素人性をプロの領域にまで高めた「プロの素人」の文章はわかりやすく、タメになると思うのである。
では、その「プロの素人」に求められることは何だろうか。以下の3つの条件にまとめられるのではないだろうか。
- 全体のうちの大事な8割を占める2割の情報にフォーカスする
- 読者がわかっていることと、わかっていないことを明確にしている
- 0か100の議論に終始するのではなく、考え方と落としどころを提示する
全体のうちの大事な8割を占める2割の情報にフォーカスする
パレートの法則(2:8の法則)にあるように、大事な8割は全体の2割にある。この2割を見極めて、情報や知識を取捨選択することが「プロの素人」には求められているのではないだろうか。
専門家は専門家故に、この2割を超えた部分の情報もふんだんに知っているのだが、インタビューする側がこの2割の部分をきちんと見極めて情報を取捨することで、読者は負担に感じずに理解を深めることができる。何から何まで入れ込めばいいというものではない。
今回のインタビューシリーズでも、過不足ない情報や知識が提供されているという印象を受けた。
読者がわかっていることと、わかっていないことを明確にしている
「プロの素人」は、読み手の側がどこまで理解していて、ここから先はわかっていない、なんとなくわかっているけど人に説明できるほど明確には理解していない、といったラインを理解してインタビューしていると感じる。
そこが理解できているので、「前提となる知識に遡って伝える」ことと「言葉の定義をきちんとする」ことができるのだと思う。
何かの説明をするときに、前提の知識がないときちんと理解できないことはよくある。そういった場合は、ターゲットの読者がどこまでは明確に理解しているかを見極め、あいまいな部分は前提に遡って伝えることが大事になってくる。
今回のインタビューでも、初回に「コロナウイルスとは」から入って「新型」以外のコロナウイルスの説明したり、インフルエンザなどの他の感染症の特徴を説明することで、その後の新型コロナウイルスの話がより高い解像度で理解できるよう構成されている。
同様に新しい言葉が出てきたときに、その言葉の意味をきちんと定義するということも大事だと思う。ここが曖昧なまま次の話に行くと、途端についていけなくなる。
このインタビューでも、新しい言葉や紛らわしい言葉、読者の理解が曖昧な言葉が出てくると、以下のような感じで、適宜インタビュワーである山中氏が確認している(編集Yは山中氏のこと)。
編集Y:あ、ちょっと待ってください。基本再生産数と実効再生産数はどこが違うんですか?
編集Y:ん? あ、他は「飛沫感染」で、これは「飛沫“核”感染」ですか。……ごっちゃになりそうだ、分かりにくいな。
この確認のおかげで、読者は取り残されずに話についていくことができているのである。
0か100の議論に終始するのではなく、考え方と落としどころを提示する
例えば、ダイエット本や健康本などで、とにかく甘いものは食べないほうがいいという話で終始してしまうと、それでも食べたいときにはどうすればいいのかモヤモヤしてしまう。そうではなく、食べないに越したことはないが、そこを我慢することで(タバコやお酒やギャンブルなどの)他のストレス解消法に走ってしまうくらいなら、甘いものも少しは許容したほうがいい、といった感じで説明してくれれば、甘いものと他の選択肢を比べてどちらがいいかを決めればいいという考え方を整理でき、行動に選択肢の幅をもたせることができる。
今回のインタビューでも、第3回目で山中氏は以下のような問いかけをして、その回答を求めている。
この問いを投げかけることで、いろいろな例が提示されて、こう考えればいいのかという知見が読者にたまっていき、0か100かで思考停止するのではなく、自分で考えることができるようになるのである。飛沫感染・接触感染をできるだけ避けましょうで終わるのではなく、トレードオフとなる場面に出くわした場合にどう考えればいいのかが提示してくれているのである。
と、以上3点が、私が考える「プロの素人」の3条件である。
このインタビュー記事はそんなプロの仕事が垣間見える内容だったと思う。
また、今回のインタビューでは、峰宗太郎先生自身も、おそらく上記のことを意識されてお話しされているようなので、非常に噛み合ったやり取りになっており、読みやすく、読み手の理解が深まる結果になったのだと思う。
話は変わるが、うちの会社でも製品やサービスの内容を動画で説明するということをやっている。そのときにいつも感じるのは、どうしても専門的過ぎる話になってしまうということである。自分たちが説明をする際も、上記ポイントを意識して「プロの素人」の視点をもっておかなければいけないと思った次第である。
ということで、専門的過ぎる話をしないということは、言うは易く行うは難しだなと実感したという話でした。