専門家が考えるリスク、素人が考えるリスク

新型コロナ第3派を受けての緊急事態宣言が発令されて1ヶ月余り。新規感染者数はだいぶ落ち着きを見せている。
それを受けて、政府は前倒しでの宣言解除を検討しているようで、世論も解除すべしという意見と、まだ継続すべしという意見で分かれている。
ただ、医師などの感染症の専門家の意見を見ると、少なくとも私がフォローしている人で、この段階(2月中旬)で解除すべきと言っている人は皆無である。
 
では、なぜこういった意見が分かれるのか。また専門家はなぜ解除すべきではないという結論に至るのか。
それは扱う分母の数と、それに伴う許容できる確率のパーセンテージの桁が違うからである。
 
Go Toトラベルを例にとって考えてみたい。
このキャンペーンに対する見方もいろいろだが、こと感染拡大にどれだけ影響を与えたかという視点で考えると、専門家でこのキャンペーンを好意的に捉えている人は少ない。
 
ここでは、このキャンペーンを活用して感染する確率が0.01%だったと仮定する(これは仮定の数字です)。
この数字は、個人としては取るに足りないリスクで、普通に家族などで活用して旅行した場合に感染することはほぼないと言っていいだろう。
実際に、このキャンペーンを活用しての感染例はかなり少ない。
しかし、国全体で見ると大きなリスクで、これまた仮に100万人が使えば100人感染する計算になる。
ここから2次感染が進めば、さらに感染は拡大することになる。
 
この100人を、リスクが高いとみるか、これくらいは許容できると見るかでは意見が分かれるところだが、少なくとも医療の現場を見ている専門家の人からすると許容できないということになるのだろう。
 
このように分母の数が変わってくると、見え方は変わってくる。
個人の視点で見れば、自分が感染するかどうかが関心事となるので、0.01%程度の感染リスクはまったく問題にならない。さすがに1割と言われればこわいと思うだろうが、1%程度であればそれほど高いものではないと認識するのでないだろうか。
いわゆる3密を避けて、こまめな手洗い・アルコール消毒をして、睡眠を十分とっていれば、そうそう感染するものではないのである。
分母が5人程度であれば、その中の人が感染する確率は微小となる。
 
しかし、専門家は国や地域全体を見てのリスクを考える。
分母の数はかなり大きくなる。
となると、確率が個人にとっては取るに足りないものであっても、国や地域全体を考える専門家から見れば許容できないということになる。
まして、感染症の場合は、その確率が複利で効いてくる。
そう考えれば、Go Toも緊急事態宣言も保守的に見ざるを得なくなる。
 
これは大企業と中小企業の行動の違いについても説明できる。
まだまだコロナ感染に対する批判が強い現状においては、大企業であっても、中小企業であっても、1人も感染者は出せないという雰囲気にある。
そうなると、感染確率が同じであれば、分母が多い大企業のほうが、感染者が出やすいということになるので、より慎重な行動にならざるを得ないということになる。
結果、リスクがあることは一切禁止、国や他の企業のガイドラインに従うというような行動になってしまう。
 
こんな感じで、今後もコロナに関するさまざまな問題に関して、意見が集約されることはないと思うが、視点の違いや許容できる確率に対する認識の違いを意識しながら双方の意見を聞くと、問題が整理しやすいと思うが、いかがだろうか。
 
ということで、どちらの視点でものごとを見るかで見え方が大きく違う、という話でした。