日本製鉄のUSスチール買収に想う

12月18日、日本製鉄がUSスチールを2兆円で買収するというニュースが流れた。
一応、鉄鋼業に属する会社を経営する立場として、このニュースを聞いて、率直に驚いたし、日本製鉄の橋本社長は仕上げの大きな一手を打ってきたなという印象を受けた。
 
橋本社長は2019年4月の就任以来、高炉の休止を中心とした国内設備の圧縮、トヨタを中心とした大口顧客への価格是正など、大胆な施策で日本製鉄をV字回復させてきた。トヨタへの電磁鋼板に関わる訴訟にも驚かされた。
2023年3月期は過去最高益と、橋本改革は少なくともここまで大成功と言って過言はないだろう。
私は橋本社長の在任期間はもっと長いものかと思っていたが、まだ4年足らず。ものすごいエネルギーで社内を改革をしてきたことが想像される。
 
さて、今回の買収、どうなるのだろうか。
こういった買収案件、シナジーをどう考えるかに尽きるかと思う。
1+1が2になる案件なのか、1+1が3にも4にも、ときには10や100になるのか。
 
今回の案件、私はあまりシナジーは大きくないのではないかと感じている。
鉄鋼業は基本地産地消がメイン。となると、グローバルでの生産体制の最適化といったことは考えにくい。日本とアメリカでどうつくって、どう売っていくかということよりも、単純にアメリカというマーケットを取りにいきたいということではないだろうか。
もちろん、USスチールの設備とアメリカの需要のバランスで、米国内の生産体制の最適化は考えていくだろうから、日本でやったようにここでの改善余地は大きいのかもしれない。
 
シナジーがあるとすれば、今後成長が期待される電磁鋼板や大型電炉の技術供与あたりか。
こういった技術供与によるシナジーがどのくらい効きそうなのか、詳しくはわからないが、ここに勝算ありと見たのだろうと思われる。
 
2兆円の買収と言われるとかなりリスクの高い買収案件のように感じたのだが、こうやって考えると、そこまでリスクは高くないのかもしれない。
単純にプラスの部分が計算でき、シナジーの部分もある程度は確度高く期待できそうな気もする。
2023年3月時点で、現預金も6,000億円、有利子負債も2兆7,000億円程度。詳しい計算はしていないが、これでアメリカの老舗ブランドとマーケットを買ったと思えば、そこまで悪い買い物ではないようにも思えてきた。
 
うまくいかない可能性としては、オペレーションやマネジメントといった、実行段階のフェーズでの問題だろうか。
すでにUSスチール労働組合からは反対の声が上がっているらしく、買収が完了できたとして、当初やりたかったことをやりきることができるかは、戦略フェーズとはまた別の問題がありそうである。
また、外からは見えなかったUSスチールの財務的なリスクも考えられるが、こちらは相当丁寧に確認しているだろう。
 
そんな感じで、上振れリスクは大きくないが、下振れリスクもそれほど大きな案件ではないと思われる。要するに、リスクはニュースの大きさの割にはそれほど大きくないのではないかと感じた次第である。
買収までにはまだいろいろとハードルがあるだろうし、完了したとして、そこからがまた大変なのは間違いないが、世界における日本の鉄鋼業復活の旗印となるのか、注視し続けたいと思う。
 
ということで、日本製鉄のUSスチール買収のニュースで思ったことでした。