工場の安全対策はトレードオフの思考ではいけない

昨日の記事で、工場の安全対策・災害対策は、かなり低い確率であっても、大きなケガになりうる作業はさせてはならない理由を説明した。
1回1回、1日1日の作業では災害は起こらなくても、それが工場全体でかつ10年単位で見れば、大きな災害につながる可能性が高くなってしまうのだ。
 
そんなことを書きながら、過去のとある災害対策の話の思い出した。
 
工場のパトロールの最中、あるクレーン作業が見ていてちょっと危ないのではないかと思い、管理者にそのことについて聞いてみた。
そのときの説明は、前に行っていた標準的な作業をしていたところ、製品を載せた台が折れそうになったことがあり、それでは危ないので今のやり方になったということだった。
 
仮にここでは、前に行っていた作業方法をA、そのときにやっていた作業方法をBとする。
作業方法Aは標準的な方法ではあるが、ある特殊な製品を運ぶ際には問題があり危険であったので、これまた危険性は残るが、そのリスクが低いBを選択したというのである。
 
当時、その話を聞いて、私はやむを得ないかと思った。
AとBの方法は、トレードオフというか、Aを選択すればリスクがあり、Bを選択してもリスクがある。では、どちらのほうがリスクが低いかということで、Bを選択したと。
工場に限らず、経営においてはさまざまなトレードオフが存在し、そのトレードオフを冷静に分析して選択していくことが大事だ、と思っていたので私は納得した。
 
しかし、今であれば、この判断というか黙認は問題であるとわかる。
 
仮に、Aの方法で事故が起こる確率を0.1%、Bの方法で事故が起こる確率を0.01%とする。
作業方法Aから作業方法Bに変えることによって、事故が起こる確率を1桁減少させることができている。
もう少し具体的に見てみると、Aであれば1,000回1回だった事故確率が、Bであれば10,000回に1回なった。
仮に1日1回この作業をするとして、1年250日稼働とすると、Aであれば4年に1回事故が起こってもおかしくなかったのが、Bであれば40年に1回になっている。
悪くないように思える。
 
しかしである。それだとしても40年に1回事故は起こるのである。
昨日の記事でも書いたが、このくらいの事故確率の作業が4つあったら、10年に1回大きなケガにつながる事故が起こってしまうである。
 
暫定的にAの作業方法を止めて、Bの作業方法に変えるということであれば許容されると思うが、恒久的にBの作業方法を認めてはならないのである。
 
工場のような大きな事故につながるような可能性のある所において、安全対策は相対的にどちらのほうがマシかということで判断をしてはいけない。
あくまでも絶対的な尺度で、仮に何か問題が起きても、大きな事故が起こる可能性はほぼゼロと言えるくらいまでの対策を行わなければならない。
 
上述の作業方法AとBの例で言えば、この2つでどちらがいいかを判断するのではなく、間違っても大きな事故にはつながらないであろう、作業方法Cを新たに考えないといけないのである。
 
とかく経営判断する際は、限られたリソースの中で素早い判断をしなければならないということで、思いつく選択肢の中でどれがベターかという視点で意思決定をしがちである。
それ自体は悪いことではないのだが、こと安全対策においてはその思考法ではダメで、あくまでもゼロを目指さなくてはならないということを、今回のパトロールで思い知らされた次第である。
 
ということで、安全第一の意味を問い直すことができた、という話でした。