工場災害における確率論

先日、うちの工場のパトロールで、不安全な行動が発覚し、現場のラインと管理職を注意するという事案があった。
ラインが稼働しているにもかかわらず、そのライン内に入って作業をしていた、という不安全行動であった。
万が一のときには、大ケガをする可能性があり、下手すれば命を落とす危険性もあるので、ただちに改善するように指示した。
また、同様の作業がないかも確認するよう指示をだした。
 
ラインが稼働しているときはライン内に立ち入らない、ライン内に立ち入るときには稼働を停止させる、これが原則である。
こういった原則があるのは、現場は百も承知だろうが、それでもこういった行為が繰り返される。それはなぜだろうか。
 
今回の作業、災害が起きた場合大きなケガにつながる可能性があるが、一方でこの作業で災害が発生する確率は、正直なところかなり低いであろう。
仮にその発生確率を0.01%としてみる。
これは10,000回同じ作業をしたら、1回ケガにつながるという確率である。
現場からみれば、そうそうケガなんて起こるはずがない、そう認識しているのである。
 
ただ、工場全体から見れば、様子が変わってくる。
この作業は1日1~2回程度やることがあるということであった。
仮に1日1回と考えたとき、1年で250日の工場稼働と考えると、1年で250回この作業を行うことがある。
10,000回に1回災害が起こるとすると、40年に1回大きな災害が起こる可能性になる。
1日2回であれば、20年に1回である。
 
さらには、同様の作業がもう1つあったとすれば、災害は起こる可能性は倍になり、3つあれば3倍になる。
同様の作業が4つあれば、10年に1回大きな災害が起きてしまうということになってしまうのである。
経営者としてはこの確率で起こる災害は看過することはできない。
 
作業者から見れば、この作業をやっても40年に1回しか災害が起きないんだから、少なくとも自分がいる間は大丈夫だと(無意識に)思ってしまうのだろうが、全体を統括する立場からみるとそうは言っていられないのである。
この認識の差があるから、原則から外れている作業であってもついつい行ってしまい、そして大きな災害を生んでしまうのである。
 
では、どうすればいいか。
この認識の差を埋めることが第一歩である。
管理者からみれば、少なくとも、大きなケガにつながってしまうような危険は限りなく確率0にしていかなければならない。
そのことを、作業者にも理解してもらうのである。
自分が大きなケガをしてしまうことは確率的にはかなり低いが、危険な作業を放置していたことによって、他の誰かが大きなケガをしてしまうことにつながるということをきちんと説明して、理解してもらうのである。
 
危険な作業だからただち止めなさい、ということも大事であるが、この管理者と作業者の感覚の違いをきちんと理解した上で、同じ目線に立って危険な作業を潰していくことが大事であると、今回の件を通じて感じた次第である。
 
ということで、工場の災害に対する認識においても、ミクロとマクロで誤謬が起きている、という話でした。