キャナルシティ博多がつくる世界観

先日、5歳の娘と二人で福岡に行ってきた。
このコロナのご時世、都市部に行くことは敬遠されるが、基本話をしなければ感染することはない。
娘以外とは濃厚接触になるような会話は避け(コロナでなくても旅行中に家族以外と長時間話をすることはないが)、手洗いとアルコール消毒をこまめにするというごく基本的な対策をしながらの1泊旅行だった。
今回はとくに何をするという目的もなく、ぶらぶら歩いて、ごはん食べて、風呂に入って、寝るというだけだったが、これはこれで楽しかった。
 
今回もそうだったが、福岡に行くときには、必ずキャナルシティ博多に行くようにしている。
何か目当てのお店があるとかではないのだが、建物のつくりも不思議で異空間に紛れ込んだような感じがするし、それでいてなんとも言えない居心地が良さがある。
いつ行っても、催し物をやっていて飽きないし、もちろん食事などで困ることもない。
地面から水が出てくるタイプの噴水もあり、夏場には子どもたちがその中に入って遊んだりして、見ているだけで楽しくなってくる。
 
そんあキャナルシティの中でも私がとくにオススメなのが、毎時間行われる噴水ショー。
敷地の真ん中に運河で、音楽にあわせて噴水が飛び出し、ショーをするのである(説明が下手…)。
5分程度の短いショーだが、なかなかどうして、癒やしの時間を提供してくれる。
その中でも、私のお気に入りは「威風堂々」にあわせてのショーで、毎日午前11時からやっているので、時間があうときにはこのタイミングに行くようにしている。
 
ということで、今回も初日の夕方と、二日目の朝からキャナルシティで時間を過ごした。
敷地中央のステージで大道芸や伝統芸をみたり、噴水ショーを見たり、ぶらぶらウィンドウショッピングしたり、ごはんを食べたり、スタバでお茶したりと、なんとも言えない贅沢な時間を娘と二人で過ごすことができた。
 
このキャナルシティ博多、開業は1996年で、今年で25年が経つ。
当時、私は浪人生で、福岡の大学を目指していたということもあり、夏休みのある土曜か日曜の1日だけ予備校での勉強をサボって、大学見学兼ねて福岡に行った。
そのとき、大学見学のついでに、当時開業したばかりのキャナルシティに行ったのが、はじめてだった。
はじめて見たキャナルシティは、これまで見たことないつくりで、その異様な雰囲気に驚いたのを覚えている。
 
その後、何度もキャナルシティには行ったのだが、いつ行っても新しいというか、前とは違う体験を提供し続けてくれている。
他のショッピングモールとはまったく違うな、といつも感じる。
 
では、キャナルシティの何が他のショッピングモールと違うだろうか。
一言で表すのであれば、「世界観」だと思っている。
 
私は大学のときに、「バザールでござーる」や「ポリンキー」、「だんご3兄弟」などで有名な、佐藤雅彦氏の授業を受ける機会に恵まれた。
その授業の全体テーマが「トーン」、日本語で言うと「世界観」である。
佐藤先生も言語化するのが難しいと言っていたが、世界観のつくりこみが大事であるという内容の授業で、彼の手掛けたクリエイティブなどをつかって、その重要性を説いていた。
CMであっても、ゲームであっても、音楽であっても、まずはその世界観から考えるといった話を覚えている。
 
キャナルシティは世界観がつくりこまれているのである。
まず、画一的なショッピングモールとは建物のつくりが違う。あえて迷路のようなつくりにしており、毎度こことここがつながっていたのかというような驚きがある。
全体的な色の使い方も、白っぽい無機質なショッピングモールと違い、茶色っぽい中世の街のようなトーンをしている。明らかに外とは違う世界にいるという感覚を味わうことができるのである。
それに加え、上述の噴水ショーなど、運河に囲まれたまちというコンセプトを強化するようなエンターテイメントが用意され、その世界観を強化しているのだと思う。
そういう世界観があるからこそ、何かを買いにいくのではなく、そこに行くこと自体が目的になるのだと思う。ショッピングモールというより、テーマパークに行くような感覚と言ったらいいだろうか。
 
こんな感じで、私はキャナルシティの世界観が大好きなのだが、いつも不思議に思うのは、他に誰も真似をしないこと。
キャナルシティのように世界観をつくりこんだショッピングモールがもう少しあってもいいと思うが、私が見てきた範囲では、このような施設は他にはない。
 
なぜ真似しないのか、少し考えてみたが、こういった施設をつくろうと思ったら、おそらく効率が悪いのだろう。
たしかにキャナルシティは、敷地の真ん中に運河が流れており、また建物自体も曲線の構造で、効率がいいという感じはしない。さらには、そういった歪な形だから、標準化も難しいと思われる。
手間暇かけて世界観をつくるというのは、不合理なのだろう。
そして、一見して不合理だからこそ、他に真似されず、キャナルシティは開業25年経っても、オンリーワンのポジションを確保し続けられているのだと思う。
 
ただ、これからの時代、ここにしかないものをつくっていかないと生き残っていくのが難しい、というのも真理だと思う。
キャナルシティのような世界観のあるショッピングモールも、もう少しあってもいいと思うがどうだろうか。
 
ということで、また娘と二人でキャナルシティでデートしたいなという話でした。