工場運営という視点で考える、新型コロナウイルス感染防止対策

前にも書いたとおり、うちの会社では自社で工場をもって運営している。
3月末くらいから、感染防止と万が一感染者が出たときの対応について考えてきたが、ここにきてウイルスの特性もだいぶ理解でき、どのように対応すればいいか整理できたので、ここにまとめておきたい。
 
まずウイルスの特性から考えられる前提から。
 
前提1:感染ルートは飛沫感染接触感染
飛沫感染」とは、簡単にいうと水しぶきのことです。くしゃみとか咳とかに乗じて、口や鼻の中の水分が水しぶきになって広がる現象のことで、飛距離は大体2メートルくらいです。
接触感染」とは、落ちた飛沫に触れることで起こる感染です。
岩田健太郎著「新型コロナウイルスの真実」より
ウイルスの感染ルートは、空気感染と飛沫感染接触感染と経口感染4つがあるが、季節性のインフルエンザ同様、新型コロナウイルスも感染ルートは飛沫感染接触感染の2つと考えておけばよさそうだ。
 
前提2:ウイルスは感染したからといって発症するわけではない。
インフルエンザの場合は感染してから8時間で100倍になるので、1つのウイルスに感染すると24時間で100万個になる。これが数千万単位になると発症するようだ。
一方で感染したからと言って必ずしもそこまで数が増えるとも限らない。初期の段階でしっかりと休めば、増殖させず発症もしないというケースも当然あり得る。
新型コロナウイルスの場合もインフルエンザと同様、ウイルスが増殖しなければ、症状には出ない。
 
前提3:感染していても症状がなければ、他の人に感染させるリスクは低い
前提2では、感染したからといって症状が出るとは限りないと書いたが、新型コロナウイルスの場合は潜伏期間が長く(1-14日、平均で5日)、無症状だったのが一転発症するケースもある。そして、その無症状の感染者がいて、その無症状の感染者から他の人に感染するリスクがあるということが、このウイルスの最大の特徴であり、怖さを助長している側面だと思う。
ただ、先日紹介した岩田健太郎著「新型コロナウイルスの真実」にも書かれているように、無症状の感染者からの感染のリスクは低いと言われている。
「症状がない」ということは、仮に自分がウイルスを持っていても飛び散ったりしないということです。咳やくしゃみ、大声でつばを撒き散らしたりしない限り、ウイルスは外に出ていきません。
「症状がない」ということは、感染させるリスクもほとんどないということです。
岩田健太郎著「新型コロナウイルスの真実」より 

これは、前提2からもわかることだが、ウイルスの数がある一定数にいっていなければ症状は出ないし、症状に出なければウイルスが拡散されることかなり少ないので、感染のリスクは低いと考えられる。

 
前提3’:無症状の感染者と長時間・近距離で話をすると感染のリスクは上がる
一方で、今回の新型コロナウイルスは、唾液、鼻水、喀痰などの上気道の分泌物に出やすいとも言われており、無症状であっても飛沫にはある一定数ウイルスは出てくると考えられる。
新型コロナウイルスSARS-CoV-2 は、唾液、鼻水、喀痰などの上気道の分泌物にも多く出てくることがわかっています。
どんなウイルスで、どのように感染するのか? 新型コロナウイルスのそもそも論(峰宗太郎)
これが、マスクをした上で、短時間もしくは離れた距離でのコミュニケーションであればそんなにリスクは大きくないと思われるが、逆に長時間・近距離での会話はそれなりにリスクがあると考えたほうがいい。
 
 
ということで、この3つ(+1)の前提をもとに、どういう考え方で工場を運営すればよいかを考えてみたい。
 
まず発熱の症状があるなど体調がすぐれない人は工場に入れない、ということが大原則となる。
こういった人がいれば、当然のことながら感染リスクは高くなるので、新型コロナウイルスなのかどうかは別にして、風邪の症状がある人は休むということからまずは議論がスタートすることなる。
よって、従業員には毎日検温して出社してもらうなどの対応が必要になってくるだろう。
 
その上でどうすればいいか。
体調がすぐれない人がいないという前提に立つと、当然のことながら、工場の中は全員体調はいいということにある。
しかしながら、無症状ではあるが新型コロナウイルスに感染している人がいるかもしれない。
この無症状の感染者がいる仮定して、感染を広げないことを考えないといけない。
 
まず、原則1にあるように、感染ルートは飛沫感染接触感染である。よって、この両方のルートを断つことが必要になってくる。
 
まずは飛沫感染のほうからだが、原則3にあるように症状がないということは、咳やくしゃみでウイルスが撒き散らされるリスクは大きくない。
よって、それほど神経質になる必要はないと考えられる。
打ち合わせをする際も、短時間である程度距離をとって話をする、ということを徹底すれば問題ないだろう。
 
しかし、長時間、短距離で話をしてしまう局面がある。それは会議と食事である。
よって、会議については、参加者を制限する、極力短時間にする、マスクをつける、リモートで行う、換気を徹底するといった対応が必要になる。
会議出席者どうしは、どうしても濃厚接触の可能性が高くなるので、こうした人たちは工場の現場にはできるだけ入らないよう、工場の中でコミュニケーションを取らないよう注意しておきたい。あわせて、会議の日時、参加者(とその座る位置など)、換気の状況など、記録しておいたほうがよいだろう。
食事については、間隔を開けて座る、食事の最中にできるだけ会話をしない、ということを徹底することになる。
 
このように、飛沫感染の防止策としては、会議と食事のルール決めとその徹底になると考えられる。
余談だが、そう考えると、会社の外での複数人での食事も避けたいということになる。無自覚な感染者がいたとしても、短時間の接触は問題ないが、いっしょに食事となるとそうはいかない。それなりの長時間になるし、短距離かつマスクがないという状況になる。アルコールが入れば、さらに大声になったり、笑い声が入ったりで、感染リスクは高まる。よって、家族以外での食事も極力控えるようにお願いしたい。
 
一方で、接触感染のほうだが、これは手を洗う、アルコール消毒をする、を徹底するほかないだろう。
むやみにいろいろなところに触れないという心がけも大事だが、折にふれて手を洗浄するということを徹底させることで、感染を防ぎたい。
ただ、前提3より、無症状の感染者がいたとしても、発症していないため、そこらじゅうにウイルスをつけてまわるということは考えてにくいので、そこまで神経質になる必要はないかと思う。
 
さらには、万が一この無症状の感染者から、他の人に感染したとしても、原則2にあるようにウイルスはある一定数以上にならないと発症しないので、睡眠を長くとるなど、いつも以上に「普通」の健康生活を意識してもらうことは大事であろう。
 
これである程度、工場内の感染は防げると考えられるが、次に従業員の家族に感染者が出た場合どうするかが問題になってくる。
従業員の家族に対してPCR検査が実施されて、陽性判定が出たのであれば、その従業員はに自宅待機してもらうことになる。
この場合は、その日からは濃厚接触がないという前提で、14日間の自宅待機をお願いすることになる。
難しいのは、家族に(PCR検査は実施していないが)症状が出ている場合。この場合は、その家族の症状と日々の接触具合によるとしか言えない。このあたりの状況を確認して適宜対応していくことになるだろう。
 
とりあえずこのような感じで想定して対応しておけば、仮に無自覚だった感染者が、どこかのタイミングで発症したとしても、いわゆる濃厚接触はないと判断できるので、まわりの人たちに感染させている可能性は低いと考えられる。発症者については、しっかり休養をとってもらって、治ってからさらに2日程度休んでもらってから出社という流れで問題ないであろう。工場の運営も混乱なく継続できると考える。
 
と、ここまで感染防止策について考え方を整理することはできたが、一方でこれはあくまでも机上論であると認識しておいたほうがいいとも思っている。
本当に感染者が出た場合の対応は異なる可能性があるということを想定しておかなければならない。
まわりの住民など、直接関係のない人たちがどう思うか、上記のようなウイルスの特性を理解していない人たちがどう感じるか、ということも考慮しなくてはならないからだ。
全国各地で感染者が確認されると、工場ごと止めるというようなケースも見受けられる。感染が広がらないように対応することは大事だが、それ以上にまわりからどう見られているかということも考慮しないといけないだろう。
この点も踏まえて、しっかりと対応の準備をしておきたい。
 
ということで、正しい知識を頭に入れて、それに沿った行動をしようという話でした。