テロを起こした容疑者の動機は徹底解明すべきか

ちょっと前の話になるが、先日の補選の際、岸田首相の演説中に爆発物投げ込まれるという事件があった。
 
この事件、昨年起きた安倍元首相の暗殺事件とも類似した点も多く、いろいろな点から報道がなされていた。
 
その際、大きな論点の1つに、容疑者の動機を解明する必要があるのかどうか、というものがあった。
何か問題が起こったならば、その原因・真因を解明しないと真の解決には至らないという意見と、動機を解明されることによって、テロによる世の中の変革という目的が成功するという印象を与え、次のテロを誘発してしまう可能性があるので、動機は解明するべきでない(少なくとも広く周知しないほうがいい)という意見と、真っ二つに分かれていた。
 
実際、安倍元首相の暗殺事件に際に、容疑者が統一教会の信者二世として苦しんでいたことが、事件の動機だということで、統一教会バッシングが広がり、容疑者としては意図した方向に世の中の流れを変えることに成功しているとも言える。そして、そのことが今回の岸田首相の襲撃につながった可能性は否めない。
 
さて、この論点に関する私の意見だが、動機を解明する必要はないし、それをマスコミが大々的に報道すべきでない、という側に立つ。
そう考える理由について、ここで整理してみたいと思う。
 
まず、どんな動機があろうが、それによってテロを起こしていいとはならない。というのが大前提。
動機が正当なものであれば、殺人やテロ、戦争を起こしていい、とはならない。
ただ、テロではない、私怨による殺人事件等では、動機の解明がなされるし、マスコミで大きく取り上げられることもあるが、これに違和感を覚える人はそんなに多くないと思われる。
 
では、この私怨による事件とテロの違いは何になるのだろうか。
 
今回のようなテロ事件に対して、原因を解明すべきという意見の人は、原因がわからないと対策ができないという「なぜなぜ分析」の理論に即した純粋な考えであると思われる。
なぜなぜ分析とは、問題の原因について、なぜなぜを繰り返して、その真因を解明し、その真因に対して対策を施すべきという考え方。よくトヨタの改善などで取り上げられる手法である。
 
で、なぜなぜ分析をしていくと、当然のことながら容疑者の背景や動機が浮き彫りとなる。これは事件が起きた真の原因であるかもしれない。
しかし、事件が起きたもう1つの原因として、過去にテロによって世の中が変えることができた事例があるという真因にもたどり着く。
 
要するに、なぜなぜ分析を続けていくと、容疑者の過去の背景から出てきた動機という真因と、過去のテロの事例による誘発という真因と、2つの真因のあわせ技によって、テロ事件が起きたということになる。
このどちらが事件の原因として大きな要素になったかは計測できないが、少なくとも後者のほうの影響は無視できないと思われる。
真因どうしがバッティングするのであれば、今後のテロを誘発する可能性のほうに重きをおいて、少なくともマスコミなどが動機の解明などすべきではない、というのが私の考えであり、ここがテロと私怨などによる事件の違いであると思う。
 
今のところ、今回の岸田首相襲撃事件に関する容疑者の動機解明については、安倍元首相の事件のときに比べると、大きく取り上げられていないように感じる。
上述したようなことをマスコミも理解してそうしているのか、単に視聴者の関心を引くような動機がなかったからなのかはわからないが、次のテロ事件が誘発されないことを祈るばかりである。
 
ということで、なぜなぜ分析もうまくやらないと間違った対策を行ってしまう可能性がある、という話でした。