お笑い賞レースに見る、「NOISE」の問題

昨日、一昨日と、R-1ぐらんぷり2022を見ての、審査員の問題について考察してみた。
R-1に限らず、こういった賞レースの審査員の問題は常々あるなと思っていたのだが、そのことに関することが、ちょっと前に読んだ「NOISE」という本に書かれていたので、今回はこの本をもとに賞レースの審査員問題について考えてみたい。
 
この「NOISE」、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらによって書かれた書籍で、同著者の「ファスト&スロー」は行動経済学の分野での名著である。
今回の「NOISE」はその続編。扱うテーマはヒューマンエラーで、系統的な偏りであるバイアスと、ランダムなバラつきであるノイズを、エラーを構成する要素として挙げている。
 
その上で、ランダムなバラつきであるノイズは、レベルノイズとパターンノイズに分解できるとしている。
レベルノイズは判断や評価をする人どうしのバラつきを意味し、パターンノイズはある判断対象に対する判断者固有の考えや価値観などの傾向に起因するものとしている。
さらに、パターンノイズは、安定したパターンノイズと機会ノイズの分解される。機会ノイズとは、その日の気分などといった一過性の原因の起因するノイズである。
 
これをお笑い賞レースの分野に当てはめるとこんな感じか。
女性はお笑いに向かないとか、新人には厳しい評価がされることが多いとか、こういったことが審査員(や場合によっては視聴者)に刷り込まれていれば、それはバイアスと言えるだろう。
賞レースではないが、お笑い芸人はひな壇にでるべき、みたいな意見もバイアスがかかっていると言えるかもしれない。
一方で、この審査員の評価は甘めとか辛めとかよく言われるが、これはレベルノイズにあたるだろう。
また、この審査員はこういった芸を好む、というのはパターンノイズに当てはまる。それに対して、同じ芸を見ても、ある日は高く評価して、別の日には低く評価するといったことがあれば、これは機会ノイズの当たる。
 
では、お笑い賞レースの審査において、このバイアスとノイズ(レベルノイズ、安定したパターンノイズ、機会ノイズ)のうち、どれを排除しないといけないか。
 
まず、バイアスは排除されないといけない、というのは皆の意見が一致するのではないだろうか。ただ、最近ではSNSが発達し、審査員も審査されているような面もあるので、慎重に審査がなされていると思う。そういった傾向にあるので、排除されなければならないが、大きな問題となっていないと考えていいだろう。
 
次に、パターンノイズ。これはある意味仕方ないし、逆にどういった芸を好むのか価値観の違いこそが審査員に求められているものだと思う。そこは複数の審査員を選ぶことによって、正当性を担保していると言える。
そういった観点から見ると、ちょっと前までのキングオブコントでは、松本人志とさまぁ~ずの二人とバナナマンの二人の計5人の審査が数年続いたが、同じコンビの二人を審査員に入れると、好みの傾向が偏るという点で、あまりいい審査員構成ではなかったと思う。
 
ただ、パターンノイズでも、その中に含まれる機会ノイズは避けるべきであろう。日によってころころ評価が変わるような審査員では、その審査の正当性が損なわれる。そういった人は大御所であっても選ばないということが大事になってくるかと思う。
 
では、レベルノイズはどうか。これが最も問題だと考える。
ただ、審査員で甘めの点数をつける、辛めの点数をつけるということが問題ではない。その審査員の中で参加者の芸に関してきちんと差をつけることと、審査員どうしでその差の大きさに差をつけない、という2つが大事になってくる。
今回のR-1のように8人出場がするのであれば、審査員はこの8人の優劣の差はつけるが、ただし1位と2位や4位と5位といった隣どうしの点差は1点にする、といった基準を同じにする必要があるということである。
もちろん、その中でも3位と4位の差は大きな差があったので、2点差をつけるくらいは許容されてもいいとは思うが、それでも1位と最下位(今回のR-1では8位)の点差は7点に収めるべきであろう。そしてこの7点は、それ以下であっても問題である。1位と最下位の点差が小さいと、その審査員の影響が小さくなることを意味するからである。
 
と、こんな感じでレベルノイズはできるだけ排除されるように配慮されるべきである。
最近では、各賞レースの各審査員はこのレベルノイズを(意識してか、無意識的にかわからないが)考えるようになっていると思う。
第1回目のM-1なんかを見返してみると、点数のつけ方はほんとバラバラだったが、回を重ねるごとに、慎重かつ丁寧な点数をつけ方になってきているので、いい傾向かとは思う。
ただ、はじめて審査員をする人は、このあたりの感覚がわからないことがあると思うので、誰か番組スタッフがきちんとレクチャーしてあげてほしいと思う次第である。
 
ということで、賞レースの審査員問題を「NOISE」を通じて考えてみた、という話でした。