HRカンファレンスに見る、オンラインセミナーの利点と大きな欠点

私が定期的に参加しているセミナーにHRカンファレンスというものがある。
文字通り、人事関係のセミナーが多数用意されているセミナーで、毎年春と秋に4日間くらい開催されている。
 
私は大学のときのゼミのテーマが組織・人事で、前職でも人事の仕事をしていたということもあり、人事分野は私のキャリアの根幹と言っていい。
12年前に地元に戻ってからは、人事に限らず経営全般の仕事をしているが、トレンドや基本的な考え方をブラッシュアップするためにも、スケジュールが空いているときは積極的に参加するようにしてきた。
コロナ前までは、東京(大阪でも開催)でのいわゆる対面式(オフライン)のセミナーであったが、去年・今年とオンラインで開催されている。
わざわざ東京に行く必要もないし、空いているすき間時間にも参加できるということで、オンラインのセミナーになって個人的には助かっている。
 
さて、このHRカンファレンスだが、ビジネスモデルから考えると、オンラインでの開催は今後かなり厳しくなるのではないかと見ている。
 
もちろん、受講者から見るとオンラインでの開催のメリットは大きい。
もともと受講料は無料なのだが、加えて移動の手間もない。自宅であれオフィスであれ、仕事の合間に気軽参加できる(受講者だけではなく、講師も自分の好きな場所から参加できる)。
また、主催者側からみても、物理的なスペースもいらないので、会議室の費用もかからないし、参加者数も増やすことができ、いいことづくめなような気がする。
 
では、なぜオンラインでの開催は厳しいと見るのか。それはこのカンファレンスのビジネスモデルにある。
 
このHRカンファレンスは、春と秋に東京で4日間くらい、大阪で2日くらい開催されており、毎日4つのメインとなる基調講演やパネルディスカッションが用意されている。
そのメインのセミナーの前に、6~7の選択式のセミナーが用意されており、これを受講しないとメインの基調講演やパネルディスカッションを受講することができないというしくみになっている。
これは、コロナ前の対面式でも、去年・今年のオンラインでも変わらない。
 
で、ビジネスモデルとしては、メインのセミナーの講師には主催者が謝礼を支払い、選択式のセミナーについては講師側が主催者にお金を支払って講義をするという形式になっている。
主催者からすると、選択式のセミナーの講師(の会社)からお金をもらい、メインのセミナーの講師にお金を払い、諸々の経費差っ引いたものが利益になる。
繰り返しになるが、受講者からはお金は取っていない。
 
このビジネスモデルのポイントは2つで、1つは広告モデルであるということ、もう1つはメインセミナーと選択式セミナーのパッケージ売りであるということである。
 
と、ここまで説明した上で、対面式(オフライン)とオンラインで何が大きく異なるか。
上述のとおり、広告モデルなので、オンラインで受講者を増やすことができるのは、一見大きなメリットのように感じる。
しかしながら、受講者側からみると、目的はメインのセミナーなのであり、これが聞きたくて参加する。
オフラインのセミナーであれば、受講者も他にすることがないので、目的ではない(選択式のほうの)セミナーも一応聞いておこうかとなるのだが、オンラインであれば接続だけして聞かなくてもいいのである。
選択式のセミナーも、最初だけでも聞いてもらえれば、これは面白いとなり話を聞いてもらえる可能性もあるのだが、オンラインでは最初から聞かれない可能性がかなり高くなる。
これだと、お金を出して講師としてセミナーする側としては効果が限りなく薄くなってしまうので、早晩ここに広告費をかけようという会社いなくなるだろうということである。
 
奇しくも、5月18日のVoicy西野亮廣エンタメ研究所「コロナが引き起こした芸能の地殻変動」で西野氏が話していたが、いわゆる劇場でやる演芸はパッケージ商品で、売れている芸人からそうでもない芸人までがいっしょくた売られているという。それがオンラインになると、自分が見たい芸人を指名買いになってしまうので、これから売り出す新人だけでなく、ベテランにも仕事がなくってしまうということであった。オフラインの劇場やショッピングモールのイベントなどでは、パッケージを売ることが可能だったが、オンラインではそれはできないという。
 
まさにこれと同じことが、少なくともこのHRカンファレンスでも起きているものと思われる。
このHRカンファレンス、ビジネスモデルを変えないのであれば、おそらくコロナ後は対面式(オフライン)のみに戻すと思われるがどうだろうか。
 
ということで、オンラインセミナーにも良し悪しがあるなと思った、という話でした。