「選択」と「提案」

今年に入ってからとある研修に参加しており、この前あった講義でのお題が「百貨店のコンセプトのイノベーション」だった。
この研修会では、「コンセプト」とは「要するに誰に何を売るのか」であり、イノベーションは「進歩」ではなく「価値次元が変化すること」と定義している。
そういった中で、百貨店が今後提供すべき新しい価値は何かを考えるというが今回のテーマであった。
そのときに考えたことや議論した内容を、講義の備忘録としてここにまとめておくことにする。
 

百貨店はすでに「体験」を売っていた

新しいイノベーティブなコンセプトを考える前に、これまでの百貨店が提供してきた価値や強みをまず考えてみた。
百貨店に限らず、これからはモノを売るのではなく体験を売るべきだ、といったことはよく聞く話であるが、よくよく考えてみると百貨店は昔から家族で1日を過ごすという娯楽(=体験)を提供していたように思う。
一昔前(いや二昔前か!)はこのコンセプト、ビジネスモデルで百貨店は一世を風靡してきたが、このニーズに対する解決策(家族で1日を過ごす娯楽)はいろいろと多様化してきており、また百貨店ともろに被る業態としてショッピングモールが台頭し、完全に取って代わられている。
 

百貨店は「選択」する楽しみという体験を提供していた

もう1つ議論の中で出てきたのは、「選択」と「提案」という対立軸。
選択肢の多い中から顧客が「選択」するスタイルと、店側がある程度「提案」したもの顧客が購入するというスタイルの違い。
どこかの記事で日本人は「選択」式が苦手で、サブウェイが苦戦するのもそれが一因ではないかと紹介されていた(なぜ「選択」が苦手かはまた別途考えてみたい)。
ただ、百貨店自体はこれまでどちらかというと「選択」スタイルで、ある程度商品に関する判断力がある人がやってきて好みの商品を選択して購入するというビジネスモデルであったと思う。
今でも「デパ地下」はその典型で、小銭をもって祭りに行って何を買うか迷いながら選択するというのに似たようなわくわく感を演出しているように思う。
 

これからの百貨店は「提案」するスタイルを目指すべきなのか?

さてここからは、参加者で議論したものや、講師が紹介したアイデアを並べてみたい。
 
ショールームとしてのメディア化
これはわれわれのグループで出たアイデアだが、消費者からお金をもらうのではなく、B2Bとして企業から広告料をもらい、さまざまな場面の生活空間を提案。消費者はその空間を体験して、最終的には消費につなげていきたいというアイデア。百貨店自体がメディアになるというコンセプトである。
百貨店の強みである、一等地という立地、バイヤーによる目利きからの提案などが活かせるのではないかと考えた(ただよく考えると、このバイヤーの目利きと広告を出す企業との利害が一致しない場合が出てくるような気がする。短い時間でのアイデアということでご勘弁を)。
 
・百貨店ホテル
ホテルと融合して体験を売るというアイデア。メディア化のアイデアと被っているところも多く、このアイデアであれば企業からも消費者からも(宿泊料として)お金をもらうことができる。ホテルの中でさまざまな生活を提案することが可能であろう。ただこのモデルであれば、百貨店よりもホテルがやったほうが早いようにも思えた。
 
・売り子の人とのコミュニケーションを楽しむ場としての百貨店
現状、百貨店の販売員は必要とされていないことが多く、むしろ販売の邪魔をしているのではないかというところからスタートしたアイデア。それであれば、必要ない顧客には販売員はつかずに買い物を楽しんでもらい、逆に販売員は銀座のクラブのようにその人とのコミュニケーションを楽しみたいという層に対応するというスタイルの百貨店。顧客にモノを売るのではなく、まさしくコミュニケーションを売るという価値転換を図るというもの。
 
他にもいくつかのアイデアが出てきたが、上の3つのアイデア含めてそのほとんどがいわゆる顧客が「選択」するスタイルの百貨店ではなく、顧客に「提案」をするスタイルの百貨店であった。
 
最近の「提案」型小売の典型例として「ジャパネットたかた」が挙げられる。購買関与度は高いが、製品判断力の低い顧客に対して、おすすめ商品を提案するスタイルで一時代を築いている。
これまでの百貨店は、購買関与度が高く、製品判断力も高い顧客に対して「選択」できる場を提供してきたが、EC全盛の時代、「選択」型はそちらにまかせて、百貨店はジャパネットたかたのように「提案」するスタイルへの変換が求められているのだろうか。