増殖スピードが遅いという生存戦略

昨日の記事では、新型コロナウイルスは体内に感染した後、増殖スピードが遅いため、潜伏期間や症状にバラつきが出て、それが結果として人々の感染対策に対する意見に大きな分断を生んでいると書いた。
今回は、この増殖スピードが遅いということを、ウイルスの側からみた生存戦略という視点で考えてみたい。
 
ウイルスの側から見たとき、生存というか増殖させるためにはどうすればいいか。
ウイルスは自己増殖はできず、生物の細胞に入り、その細胞が分裂することでウイルスも増殖することができる。
となると、ウイルスがあまりに強毒化すると、宿主である生物まで殺してしまうことになり、ウイルス自体も存在できなくなってしまう。
一方で、あまりにも症状が弱いと、仮にある生物の個体内で増殖できたとしても、そこから外に広がる力が小さい(症状が弱くて咳とかしなければ広がりようがない)ので、これまた増殖できずに絶滅してしまう(実際はこういうウイルスは無数にあるのだろうが)。
 
今回の新型コロナウイルスは感染力や症状の大きさが絶妙であり、そうであるがゆえに人間にとって大変な事態を招いていると言えよう。
そして、その絶妙な感染力と殺傷能力は、増殖スピードの遅さというのがカギになっていると考える。
 
インフルエンザと比較してみるとわかりやすい。
インフルエンザは増殖が速く、1日で100万倍にも増えて、すぐに発症してしまう。よって、隔離が容易で、それ以上の感染は防ぐことがやりやすくなる。
それに対して、新型コロナは増殖スピードが遅いため、感染者がわからず、発症する前(=隔離する前)に他の人に感染させてしまうことが頻繁に起こっている。
もちろんインフルエンザもやっかいで、季節ごとに変異を繰り返して、毎年ワクチンが必要になるなど大変なウイルスではあるが、新型コロナはこの増殖スピードが遅いがゆえにさらにややこしいウイルスであると言えるだろう。
 
ただ、ここで一歩ひいて考えると、増殖スピードは速いほうが感染させる力が強そうな感じがするが、それが逆で遅いことで感染力が増しているというのは面白い。
急がば回れではないが、増殖スピードが遅いことが(ウイルスにとっては)有利に働いているのである。
もちろんすべてのウイルスに関して、増殖スピードが遅いほうが感染力が強いというわけではないが、こと新型コロナに関してはインフルエンザと比較するとそう言えるのではないかということである。
 
これはビジネスや芸能の世界でも同様の現象があるような気がする。
サービス開始初期やデビュー当初は、鳴かず飛ばずだが、長い雌伏の期間を経てブレイクするという例は多々ある。
その期間に足腰を鍛えることによって、長い間ヒットを続けることができるのであろう。
 
ウイルスには意思はないのだが、逆の立場でものごとを見ると、新型コロナはうまい生存戦略を選択しているなと感じた次第である。
 
ということで、何ごとも速ければいいというものではない、という話でした。