「銃・病原菌・鉄」から考える組織考察

前回、「銃・病原菌・鉄」というちょっと(かなり?)前に出た本のまとめを書いたが、他にも直接的な学びとして、社会の種類の変遷に関しての記述は、組織論的な観点から興味深く学ぶことができたので紹介しておきたい(第14章「平等な社会から集権的な社会へ」)。

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ここでは、社会の種類を、「小規模血縁集団」「部族社会」「首長社会」「国家」の4つの区分しており、左から右へと社会が大きくなり変遷していくという話で、それぞれの特徴は以下のとおりである。

 

小規模血縁集団

・5人~80人程度で形成
・1つの大家族か、親戚関係が集まってできたもの
・血縁関係or婚姻を通じての親戚関係
・階級が未分化で社会的な区別がない
・「平等」という言葉で表現されるが、すべてのメンバーが別け隔てなく平等の権限をもつという意味ではなく、個人の人格、知性、技量などによってリーダーが決まることを意味する
 
部族社会
・数百人規模
・複数の血縁集団からなるグループ、グループ間で婚姻関係を交わす
・人びとが定住生活に入るための条件が食料生産の開始あり、その上で小規模血縁集団よりも有利
・人間集団が互いに顔見知りで相手の素性を知っていられる人数は「数百」まで限度だが、部族社会では皆の名前や関係がわかる程度の人口
・よって問題が起きても、親戚関係であるため解決が容易
・官僚システムがなく、警察システムや税金もないというか必要なく、小規模血縁集団同様「平等的」
・人口が数百人以上の部族社会は首長社会に変化する傾向がある、集団が大きくなるにつれ、知らない人間同士の紛争解決が難しくなってくるから
 
首長社会
・数千から数万人規模
・大部分が血縁関係でつながっていないため、互いに名前を知らない関係であることが多い
・集団内で発生するもめごとが問題化する可能性が高くなる
・そのため警察システムが必要となる
・税金も必要となり、それを集める人などの官僚システムもできてくる
・こういった人たちも養っていく必要があるため、ある程度大規模で効率的な食料生産が求められる
・結果として、特権階級と平民階級にわかれてきて、社会的な分化が起こる
 
(首長社会における富の配分と搾取)
首長社会では、個人で得るには費用がかかりすぎて実現不能なサービスを提供できる
その反面、富を平民から吸い上げ、首長たちによる搾取が可能となる
これらはどちらか一方に偏るのではなく、程度問題
エリート階級が泥棒とみなされるか、大衆の味方とみなされるかは再分配された富の使い方対する平民の好感度によって決まる
・民衆から武器を取り上げ、エリート階級に武装させる
・集めた富の多くを、民衆に人気のあるやり方で再分配して喜ばせる
・独占的な権力を利用して、暴力沙汰を減らし、民衆が安心して暮らせるようにする
イデオロギーや宗教でエリート階級の存在や行為を正当化する
 
現在、世界上で、小規模血縁集団や部族社会は存在するが、首長社会は20世紀初頭までに絶滅した
 
国家
・規模拡大の延長線上にある
奴隷制度は首長社会よりも大規模に行われていた
・もめごとは法律や司法、警察といったシステムによって解決される
・大規模に戦力化させやすい
・集約的に食料生産をすることで、人口の増加を引き起こし、より複雑な社会を誕生させることが可能となったし、またそのことでさらに集約的な食料生産を可能とした
 
 
ここまでが、本に書かれてきたことだが、このことを会社組織に当てはめると、興味深い考察ができる。
会社組織においても、規模が大きくなるにつれ、社会の変遷と同じく非連続的な変化があり、ここに対応できないと成長が止まる、もしくは会社が衰退・消滅してしまう結果になってしまう。
4つの社会の進化の中でも、小規模血縁集団と部族社会、首長社会と国家の間の差は比較的連続的だが、部族社会と首長社会の間は非連続的であるように感じる。
よく150人程度の規模までなら顔と名前が一致するが、それ以上になるとマネジメントのスキルが異なると言われるが、その理由は部族社会と首長社会の特徴の差、とくに官僚システムの必要性・強化と、エリート階級(経営陣)と平民階級(一般社員)の意識の差という点によって説明できる。
ここを意識せずに、組織が大きくなってしまうと悲劇が起こるというわけである。
うちの会社は150名規模で、まだまだ顔と名前が一致するレベルだが、これがもう1段階増えてくると、さらなる管理システム(官僚システム)の強化もしくは、それに代わるアイデアを実装しないといけなくなるだろう。どの規模まで大きくするかは明確には意識していないが、この点は頭の片隅に置いておきたい。
 
また、今流行りのオンラインサロンでも同様のことが起こっているように思う。
普通のオンラインサロンは100名程度、多くても300名程度を定員として、それ以上は増やさないように運用しているところが多い。
その理由はまさに上記のとおりで、顔が見える範囲でマネジメントしている。
その一方で、異質なのが、西野亮廣氏の運営する「西野亮廣エンタメ研究所」で、会員数は1万人を超えている。
私もこのオンラインサロンに入ってみたが、西野氏の発言を見ると、意識的に規模追っており、個人ないしは規模の小さな組織では費用がかかりすぎて実現できないサービスを提供しようとしている。
また管理システム(サロンを荒らす人への対処方法)の整備も視野に入れているし、自分が一番に行動し汗をかきまた有用な情報や機会を提供することで、平民階級(サロンメンバー)の満足度・好感度を高めるなど、エリート階級(西野氏)からの富の配分についてもかなり意識的にマネジメントしているように感じる。
「部族社会」レベルのオンラインサロンではなく、「首長社会」レベル(おそらくその先にはここでいう「国家」レベル)のオンラインサロンを目指しているのであろう。
 
ということで、この人類史における社会の変遷というフレームワークを頭にいれておくと、実際の組織(会社に関わらず、その他のコミュニティにおいても)における問題にも対処できるという次第で、私自身も忘れないようにしておきたい。