銃・病原菌・鉄

前から読みたいと思っていた「銃・病原菌・鉄」をようやく読み終えることができた。
日本語訳は2000年に出版されており(文庫は2012年)、以前から気にはなっていたが、手付かずのままになっていた。
読み終えての感想だが、「サピエンス全史」と同様、超長期の歴史を学ぶことができる内容で、大変有意義であったし知的興奮も覚えた。
ちなみにサピエンス全史との比較でいうと、どちらもさまざまな学問を下敷きにして構成されているが、メインとしては、サピエンス全史が進化生物学の考え方を学ぶことができたのに対し、銃・病原菌・鉄は地理学的な視点を吸収することができた。
 
さて、その内容についてだが、この「銃・病原菌・鉄」は、なぜユーラシア大陸の人々が、他の大陸を制覇したのか、なぜその逆ではなかったのか、に答えるというのが全体のテーマである。
直接の理由は、ユーラシア大陸の人々がタイトルにもある「銃・病原菌・鉄」を先に手に入れることができたからであるが、さらにそれを手に入れることができた根源的な理由を探っていく。
結論としては、それぞれの大陸に居住していた人(の能力)が生まれつき異なっていたのではなく、それぞれの大陸ごとに環境が異なっていたらからで、根源的な理由として食料生産を先に始めることができたことを挙げている。それぞれの大陸によって栽培化・家畜化可能な動植物が異なっており、ユーラシア大陸は地理的に食料生産が有利で先に始めることができた。
さらに、ユーラシア大陸は東西に広がっており、緯度による差が他の大陸ほどなかったことから、食料生産や技術の伝播が速かったこと、また大陸の面積の広さから人口が多くなる素地があり、何かを発明する人の数も多いため技術的な発展が速かったことなどを理由として挙げている。
もしもう1回人類の誕生から現在までを繰り返すことができたとしても、同じようにユーラシア大陸の人々が他の大陸を制覇するのであろう。
 
さらなる考察として面白いのは、ではなぜ中国ではなくヨーロッパが世界を制覇したのか、その理由である。
中国でも食料生産が独自に起こった可能性が高く、食料生産開始時期には大きな差がない。
では何が違うかというと、それぞれの地形の違いが原因であるとしている。
中国では北部(黄河)にも南部(揚子江)にも東西方向に流れる大河があり、またその間のも比較的ゆるやかな地形であったことから、東西方向、南北方向ともに交流が容易であった。
一方で、ヨーロッパは地形の起伏が中国より厳しく、長い水系もないため、文化的・政治的に交流が難しく、現在も統一されていない。
よって、中国は長い歴史において、権力者の変遷はあったものの、基本は1つの国として推移してきたの対し、ヨーロッパでは歴史上においても現在も複数の国家が形成されてきた。
なので、中国ではある政権が舵取りに失敗すると比較的長い期間停滞してしまうのに対し、ヨーロッパでは複数の国家が存在していたため、1つが失敗しても他が成功して、そちらの技術やしくみが他に伝播してきたというのである。
ここから考えると、現在における中国という国は、やはりさまざまな面でポテンシャルは高く、政治の舵取りさえうまくいけば100年スパン程度であれば超大国になりうる可能性は高いのではないかと言えるのではないだろうか。そんな視点もこの本から得ることができた。
 
冒頭でサピエンス全史について言及したが、どちらの本を読んだときにも、こういった超長期の人類史を押さえた上で、歴史(有史)を勉強すると効率的だし学びも多いのではないだろうかと感じた。
超長期の歴史の中の有史をつかむことで、視野が広がり、また1つひとつの事象がなぜ起こったのかその原因を探る手立てになる。そして、そこから得た知見やものごとの見方は、これからの時代を読むことにも役立つのではないかと思う。
そんな歴史の授業があったら、ぜひ受けてみたい。
 
文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
 
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