「物価とは何か」から見る、今後の物価の予想

先日、「物価とは何か」という本を読んだ。
この中で、2017年の鳥貴族の値上げについて取り上げており、鳥貴族はこの値上げによって客単価は4%程度上昇したものの、客数が徐々に下がり、翌年には対前年比で-15%程度落ち込み、結果として売上も減少した、と紹介されていた。
 
著者の分析では、この値上げが上手くいかなかった理由は、鳥貴族の値上げが同業他社へ波及しなかったため、としている。そういった相互作用の視点が欠落していたため、消費者が値上げを受け入れず、他店に逃げられてしまった、と。鳥貴族の挑戦から学ぶべき教訓は、相互作用の重要性であると結論づけている。
 
要は、業界の各企業が一斉に値上げをしないと、うまくいかないということ。
長年に渡るデフレによって、価格据え置きという商慣行が日本経済にビルドインされてしまい、大胆な緩和も価格据え置き慣行には歯が立たず、今なおその慣行が続いていると、著者は言及している。結果として日本の消費者は値上げを断固拒否するようになり、この鳥貴族のような、個別企業の値上げは目立ってしまい、客数や販売量の下落につながったようだ。
 
この分析から見ると、今回(2021年くらいから)の値上げ基調はどうなるのか。
これまでは長い間(20年以上)デフレ基調で、個社が値上げしようとも、基本他社が追随するような流れにはならず、価格据え置きの慣行が継続していた。
しかし、今回は、川上企業(材料メーカー)が、原料高騰と設備の統廃合を背景に値上げを実施しているため、川下の最終メーカーや小売が安く仕入れることができず、価格転嫁不可避の状況に。「赤信号みんなで渡ればこわくない」ではないが、他社を横目でみながらみんなで値上げができる環境になった、と言える。
 
結果、好むと好まざるとにかかわらず、これでデフレの流れは終止符を打つだろう。
デフレが人々の心理で継続していたのであれば、値上げやむなしという今回の流れから、この心理も徐々に変わってくると思われる。
 
これで、デフレも脱却でき万々歳かと言えば、もちろんそうではない。
ポイントは原料や材料の値上げ分だけでなく、人件費つまり賃金上昇分まで価格に転嫁できるかどうか。できなければスタグフレーションへ一直線である。
消費者としてはたしかに値上げは痛いのに間違いないが、この流れに乗じて企業が賃金上昇分まで転嫁した値上げを敢行できるかが分かれ目かと考えるがどうだろうか。
 
ということで、みんなが足並み揃えて値上げができる環境が整った、という話でした。