「新型コロナとワクチン わたしたちは正しかったのか」を読んで~ものごとの考え方編

先日のブログで紹介した「新型コロナとワクチン わたしたちは正しかったのか」。新型コロナのさまざまなトピックスをクリアに理解できたことに加えて、ものごとの考え方についても参考になる部分が多かったので、ここでまとめておきたいと思う。
医療は1対1の因果論ではなく、複雑なシステムを扱うため、どこまでいっても確率論の世界であるということ。
こうすれば必ず起こる、といった1対1の因果論で説明がつくことはまれで、医学の分野は人体やウイルスといった複雑なシステムの領域なので、どこまでいってもばらつきや確率での話になる。
ただ、私の印象では、この確率論を理解できている人は非常に少ない、何ごとも1対1の因果論で理解したがる人が多い。たとえば、ワクチンを打ったら必ず感染しないと理解してしまう。だから、ワクチン打ったのに感染したという「例外」が出てくると、ワクチンを打っても意味がないと結論づけてしまう。
本来は、どこまで言っても確率論でしか語れないので、ワクチンを打ったら感染する確率が低くなる、とは言えても、ワクチンを打ったら「必ず」感染しないとは言い切れないのだが、勝手に脳内変換してしまう人が多いことに辟易としていたので、本書を通じてこういった確率論の考え方が少しでも理解されればいいなと感じた。
 
2つめ。言葉をきちんと定義することについて。
本書では、何度も言葉を丁寧に扱う、言葉をきちんと定義して議論するということが、話題挙がっていた。
 
言葉を丁寧に、正しく用いることは極めて重要です。定義が定まっている言葉、誰が使っても同じことを意味する言葉を使うことで、思い込みによる誤解を避けることができ、議論や研究が初めてスタートできるからです。

 

この、言葉を定義をする、ということは私も大学時代の恩師から何度も言われたことなので、頷きながら本書を読み進めた。

 

本書では、共著者の山中氏が「新型コロナとかぜはどこが違うのか」という質問に対して、峰先生は新型コロナはウイルスの名前、風邪は病気の名前で、病気の原因と病気そのものを比較しようとしたのか、とツッコミを入れている。
これは何も意地悪をしようとしたわけではなく、(普通の)風邪と言っても、何を差しているのかがわからないということ。この場合の普通の風邪とは、新型コロナ以外の旧型コロナウイルスやライノウイルス、アデノウイルス、RAウイルスなどによって起こるウイルス性感染症のことを差していたのだが、他にも感染症としては細菌や真菌、寄生虫などの病原体によって引き起こされる病気もある。何と何を比較しているのか、それをハッキリさせたほうがいいと峰先生は言っている。
 
これはビジネスの世界でもよくあることで、ふわっとした言葉を使うことで、同じ言葉でも人によって違う意味をイメージしていることはよくある。
それぞれが同じ言葉でも違うことをイメージしていては、議論に時間がかかるばかりではなく、誤った結論を出しかねない。改めて、このことを肝に銘じておきたいと思った。
 
3つめ。1つの要因だけで説明しようとすることについて。
本書で、感染拡大を抑えるのはあわせ技である、という説明がされていた。
われわれはややもすると、ある特定の原因が結果に大きく寄与していると思いたがることがある。例えば、ワクチン接種が行き届いたから、第5波後の感染者数も大幅に減少した、といった感じで。しかし、ワクチンだけで集団免疫獲得は難しく、実際アメリカ、イギリス、イスラエルのように、ワクチン接種が進んだのでそれまでの制限を一気に解除したところ、感染が再拡大したという例は多い。
多くの人が、何か1つの大きなファクターで説明したいという欲求をもっているが、実際は小さいことの積み重ねの結果起こっているということも意識をしておきたいところである。
 
このことは、ビジネスにおいても同様で、ある1つの施策が業績に効いたのだと思い込みやすいし、そう説明したい誘惑に駆られる。
根本原因を捉えて、そこに集中して対応するという視点は一方では大事なのだが、それだけを盲信してしまっては、足元をすくわれてしまう可能性がある。
ある1つの打ち手だけでは決定打にならないということは往々にして起こるので、小さな打ち手も含めてコツコツやって、目標水準にまでもっていくという視点も忘れてはいけないと思った。
 
 
こんな感じで、本書では新型コロナやワクチンに関して、峰先生の「正解」をおしえてくれるだけでなく、「なぜがそれが正解だと考えるのか」といったものの見方、さらにはものごとの考える際の作法についてまで説明してくれており、非常に有益な1冊であると感じた次第である。
 
ということで、コロナに関する情報や知識だけでなく、ものごとの考え方についても学べる本の紹介でした。