「新型コロナとワクチン わたしたちは正しかったのか」を読んで~新型コロナの新たな知見編

この年末年始で、峰宗太郎・山中浩之著「新型コロナとワクチン わたしたちは正しかったのか」を読んだ。
前著「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」から約1年での発売だが、前著に含まれていた内容も端折らずにさらにわかりやすく説明してくれており、この1年で明らかになったことも書き加えられ、ウイルスや感染のメカニズム、治療薬やワクチンについて、論理を飛ばさずに丁寧に説明してくれている良書であった。
前作よりも、データも揃ってきており、その分落ち着いて解説してくれているという印象。オミクロンでの流行がはじまるこのタイミングに読むことができてよかった。
本書からはいろいろな学びがあったのだが、ここでは私がこれまで漠然としか理解できていなかったが、この本を通じてしっかりと知識を得ることができたことについて、2点まとめておきたいと思う。
 
1つめは、免疫系の暴走について。
この免疫系が暴走するということは初期の段階からよく聞いていたが、きちんと理解できていなかった。
体内のウイルス量は、中等症Ⅰあたりまでで最大化して、(酸素投与がはじまる)中等症Ⅱあたりからウイルス量は減っていき、一方で免疫系の暴走(サイトカインストーム)がはじまり、それを抑える必要が出てくるとのこと。
このあとの治療薬の話でも出てくるが、このウイルス量を抑えるのと、サイトカインストームを抑えるには別の話で、当然投与する薬も変わってくる。
また、サイトカインストームは普通の風邪ではまず起こらない現象で、ここは普通の風邪と大きく異なる部分であるということも理解できた。
無症状や軽症で終わるということは、免疫系が様々な症状を出すまでもなく、早々に新型コロナを圧倒してしまったということなのである。
 
2つめが、治療薬の話。
新型コロナの治療薬はざっくりわけると「ウイルスを殺す、増殖を止める」薬と「免疫系の暴走を抑える」薬があるということから話が進む。
前者は初期・軽症時の薬、後者は重症化時の薬と分類できるだろう。
 
さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、急性ウイルス性感染症であるということが、治療薬を整理するのに役立つ。「急性」で「ウイルス」が原因の感染症
急性とは、比較的短期間に症状が悪化することを意味する。慢性の逆。
ウイルスとは、生きている宿主の細胞内で繁殖する小さな病原体のことで、自己だけでは増殖できない。ウイルス性の病気は、細菌・真菌・寄生虫などが原因のものとは異なる。
 
これらの特徴と治療薬に求められることを丁寧に解説してくれている。
「急性」であるという特徴。
急性の逆の「慢性」のウイルス感染症ではいい薬が多く開発されているということだった。その理由は、ウイルスの増殖スピードが遅いから。ウイルス量を抑えることは比較的容易で、HIV(慢性のウイルス性感染症)については研究もかなり進んでおり、普通の人と同じような生活ができるようになっている(逆に急性の場合は短期間で体内からウイルスは排除されるが、慢性の場合は体の中に残り続けるので厄介であるという特徴はあるが)。
それに対して「急性」のウイルス感染症については、ウイルスの増え方がたった一晩で100万倍にもなるという速さのものもあるので、あとから薬で抑えるはかなり難しい。これまで特効薬といえるものは持っておらず、せいぜいウイルスが増えるスピードを少し遅くできるくらいのものだった。
こういった理由から、急性の感染症であるCOVID-19の治療薬の開発の難しいということが理解できた。
 
「ウイルス」が原因であるという特徴。
細菌は自分で増殖できるが、ウイルスは人間の細胞に入ってその細胞が分裂するのに伴って増殖するという違いがある。そのため細菌の場合はヒトには作用せず、病原体となる細菌にだけ効くような抗生物質などの薬を投与することができる。
一方、ウイルスの場合は細胞に潜り込むため、ウイルスだけに効く薬はつくりにくく、細胞にも攻撃してしまうため副作用が出やすい。
ここに、新型コロナを薬でやっつけるのが難しいもう1つの原因がある。
 
このように、新型コロナウイルス感染症は、急激にウイルスが増殖することで起こる病気であることから、一般的にはウイルスの増殖を抑える治療薬は難しいのだが、その中で各社がしのぎを削って新たな治療薬が開発されつつあるということが本書で紹介されている。
また、免疫系が引き起こす強すぎる炎症を抑えるための薬は、他の病気のために開発された薬の有効性が認められてきているとのことで、最適な使い方についてはまだ模索している部分もあるが、これから改善されるであろうとのことで、期待をしたいと思う。
 
治療薬に関して、もう1つ勉強になったこととして、薬で対処するということは血液中の薬の成分の濃度を高く保つことが必要で、予防の効果を発揮するためには、毎日飲み続けないとならず、副作用が起こる確率も上がる、ということがある。
それに対して、ワクチンは成分の血中濃度が上がるわけではなく、免疫系が反応がして体の状態が変わり、病原体がいる間、攻撃をし続けるというもので、仕組みがまったく違うものなのである。
よって、治療薬はワクチンを代替するものではなく、補完するもので、治療薬があるからワクチンはいらないとはならない。
また、治療薬は医療の逼迫を解消するという意味はあるが、流行をコントロールするという意味では効果はあまりない。
このように、治療薬とワクチンの役割の違いについて明確に理解できたことで、ワクチン接種をきちんと進めていくことの重要性も認識することができた。
 
以上、この本を通じて、個人的には治療薬の考え方についてかなり整理することができた。それ以外にも、ウイルスの基本的な知識から、ワクチンや変異ウイルスについて、詳しく解説がされており、強くオススメする。
 
ということで、オミクロンの感染が広がる中、右往左往せずに対応するために、本書から基礎的かつ有効的な知識を得てみてはいかがだろうか、という話でした。