値上げを転嫁できる業態、しにくい業態

昨日の記事では、設備集約における供給制限が起こり、これによって値上げが進み、ようやくデフレが終わるではないか、ということを書いた。
鉄鋼業界のみならず、エネルギーや化学といった業界といった、いわゆる川上産業で同様のことが起きているようで、いよいよ日本の物価の上がってくるのではないかと思っている。
 
ただ、ここで懸念される点が2点。
 
1つは、この物価の上昇に、賃金の上昇が追いついてくるかどうか。
どうやらいろいろな物価は上がりそうだが、それに伴って賃金も上がらないと、インフレではなくスタグフレーションに陥る。
スタグフレーションでどういった世界になるのかは教科書でしか見たことがないのだが、大きな不景気を招くのは間違いなさそうだ。
 
これに対しては、2つの意見があると思う。
1つは、少子化の流れを受けて、人材供給も制限されてきているので、賃金も上がってくるのではないかという意見。
地方の工場地域に属するうちの会社も、タイムリーな人材確保ができていない。大手メーカーの人材需要が旺盛なので、中小まで回ってこないというのが実感である。
となると、賃上げを真剣に考えてくる企業も多くなってくるのではないだろうか、というもの。
 
もう1つは、終身雇用は維持され、さらに定年延長が求められる中、簡単に賃上げはできないだろうという意見。
日本は人材流動化は進んでいない国と言われているが、その理由は簡単には解雇できず、雇用が固定化されていることだが、これが賃上げの足枷になっているのは間違いないだろう。
 
この2つのベクトルのどちらが強く、賃上げが起こるのか起こらないのか、注視していきたい。
うちの会社でも来年の以降の大きな課題になるだろう。
 
 
もう1つの懸念される点。
こちらが今回の本題なのだが、値上げの転嫁が難しい業態があるということ。
 
生活必需品や食料品などでも来年からの値上げが発表されているが、まだまだあらゆる品種で起きているとは言えない。
消費者のデフレマインドというか、値上げに対するアレルギーは依然として大きく、デフレは嫌だけど、値上げはもっと嫌、という感じか。なかなか最終価格の値上げに踏み切れない業界・企業も多いのではないだろうか。
とはいえ、川上の素材メーカーは値上げをガンガンやってくる。一方、川下の消費材メーカーや完成品メーカーは値上げに踏み切れない。そうなるとどうなるか。
川下メーカーが利益を削るか、それが嫌なら川中の加工メーカーが涙をのむことになる。
 
前の記事でも書いたように、素材メーカーは否応なしに値上げに踏み切る。なぜなら供給が少ないからである。需要より供給が少ないのであれば、例え原料が安くても価格を下げる必要はない。思い切って値上げができる。
これに対して、加工メーカーはどうか。材料分は値上げできるだろうが、加工部分に対しては難しい。
なぜなら、まだまだマーケット全体の生産キャパシティという点では余剰があり、需要と供給のバランスという意味では供給過剰と言っていいからである。より正確に言うと、供給側(加工メーカー)も需要側(川下の消費財メーカー、完成品メーカー)も、そう思っているから簡単には値上げは進まない。加工メーカー側が値上げを行おうとしても、川下のメーカーにそれで別の加工メーカーに切り替えると言われると、思い切った値上げはできない。
 
うちの会社は比較的川上で材料を扱っている会社で、供給減の影響を受けるために、値上げは実施しやすい。なぜなら、材料がないのが目に見えてわかるから。
これに対して、加工の要素が大きいメーカーは、思い切った値上げは難しいというのが実態ではないだろうか。全国各地に供給できる企業はまだあり、しかもそれがどのくらいあるのかがわからないというのが大きい。実際、取引先の加工メーカーも強気の値上げには踏み切れないという話をよく聞く。
 
 
昨日の記事では、素材メーカーの値上げから、徐々に値上げが浸透していき、デフレを脱却できるのではないかと書いたが、そこに行き着くまでのハードルはまだまだ高いかもしれない。
賃上げと中間加工メーカーの値上げが進めば、いよいよデフレ脱却となるのだろうが、消費者のデフレマインドは根深く、どちらのベクトルが強いのか、注視していきたいと思う。
 
ということで、デフレ脱却も一筋縄ではいかない、という話でした。