デフレは供給制約でやっと終わるのか

2021年も年末。巷では各地で値上げのニュースが増えてきたように感じる。
私の会社は大きな括りで言えば、鉄鋼業界に属するのだが、この業界もご多分に漏れず、値上げ値上げの1年だった。
 
鉄鋼だけではなく、素材に関する業界は今値上げが真っ最中だと思うのだが、おそらく今回の値上げは原料価格の上昇によるものだと思われている。
それ自体は間違いではないのだが、それだけではない。もう1つの大きな要因が、生産設備の統廃合による、生産キャパシティの縮小、そしてそこから生じる供給制約である。
 
これまで、鉄鋼メーカーは、原料価格と製品価格を紐付けてきた。
原料の価格が上がれば、製品の価格も上がり、原料価格が下がれば、製品価格も下がるといった感じ。
これは、需要に対して全体的に供給が過剰だったため、価格を維持するために原料価格に紐付けた値付けをしてきたわけである。
 
しかし、業界再編が起こり、鉄鋼業界では2019年に日本製鉄という鉄鋼メーカーが発足。これを契機に、日本製鉄では設備の統廃合を決め、業界他社も歩調をあわせて設備の統廃合を進めている。
その結果、業界全体で生産キャパシティが大きく減ることになり、これからは供給が需要を下回ることになっていく。
 
となると、足元の値上げは、原料価格の高騰によるものであるが、供給が需要を下回るようになると、たとえ原料価格が下がったとしても、鉄鋼メーカーのような素材メーカーとしては価格を下げる必要はなくなる。
 
どういうことか。
例えば、100円のコストがかかっていたものを150円で売ろうしたとする。
これまでは需要が100に対して、供給量が120くらいあったので、150円で売りたいと思っていても、それを下回る価格で売るメーカーで出てきて、価格を維持するのが大変だった。
しかし、これからは需要が100に対して、供給量がそれを下回る世界になってくる。そうなると、仮に100円のコストが50円になったとしても、150円の売値を下げる必要はなくなるのである。なんなら150円以上の値付けをしてもかまわない。
 
このように素材メーカーの値上げが継続的に続くと、消費財の価格もこのままでは利益が出ないために、それを転嫁すべく値上げが起こる可能性が高い。すでにいろいろな消費財で来春からの値上げが発表されているが、もっと広い範囲で値上げが実行されるだろう。
 
そうなると、いよいよデフレの時代が終わりインフレ基調になるかもしれない。
もしこの理屈通りにいくとすると、ここ20年のデフレは供給過剰が原因であり、ここにきて各業界で設備の統廃合が進められた結果としての供給制約によって、デフレが終わるということなる。
 
そんな自浄作用が、なぜこれまで起きなかったのか。そう問われれば、これまで設備集約的な業界においては、採算が悪くても限界利益が少しでも取れるのであれば、設備を稼働させて生産したほうがよかったからである。しかし、ここにきて設備の老朽化が進み、少子化カーボンニュートラルが求められる世界で、その設備を修繕したり更新したりしてまで生産を維持する経済合理性がなくなった。結果、設備集約が進み、過剰に供給されることがなくなったわけである。
 
もっと大きな視点で見れば、高度成長期に合わせて整えていった設備がようやく寿命を迎え、先に落ち込んでいた需要とマッチするようになったとも言える。
その需要と供給のミスマッチがこの20年以上のデフレを生み出し、それが失われた20年(いや30年か)と呼ばれる時代につながっていたのだろう。
 
ただ、依然として消費者のデフレマインドも根深いものがある。供給制約における物価の上昇と、このデフレマインド、どちらのベクトルのほうが強いのか、業界ならびにマーケットをしっかり観察しておきたいと思った次第である。
 
ということで、供給制約によってようやくデフレは終わるかもしれない、という話でした。