「いただく」の用法

社内の会議で報告を受けていると、敬語の使い方が間違っているケースが多々ある。
別に社内でとどまるのであれば目くじらを立てることもないのだが、他社の人との会話で敬語の誤用があるとけっこう恥ずかしい。
 
最近気になるのは、「いただく」の用法。
管理職の会議での報告で、「(部下に)残業して作業していただきました」とか「無理を言って(自社)工場に生産していただきました」とか。
とりあえず「いただきました」と言っておけばいいと思っている節がある。
 
ここで、「いただく」をちょっと整理すると、動詞としての用法と補助動詞としての用法がある。
動詞としての「いただく」は、「食べる」や「もらう」の謙譲語。食事の前の「いただきます」は「食べる」の謙譲語である。
補助動詞としての「いただく」は「~していただく」といった使い方で、こちらも謙譲語。
今回問題しているのは、この補助動詞のほうである。
余談だが、動詞としての「いただく」は漢字で「頂く」でいいが、補助動詞のほうは漢字ではなくひらがなで表記する。
 
さて、敬語の考え方についても簡単にまとめておきたい。
敬語は、目上の人には尊敬語、目下である自分には謙譲語、ということで覚えている人が多いがこれだと中途半端だと思っている。
 
例えば、ある会社の社内で上司である部長が来たときに、「部長がいらっしゃいました」はいいのだが、これを客先でお客さん相手に使うと誤用になる。
 
こういった場合、「こちら側」と「あちら側」にわけて、あちら側を上げる場合は尊敬語、こちら側を下げる(へりくだる)場合は謙譲語と考えればいい。
社内であれば、私が「こちら側」で部長が「あちら側」なので「部長がいらっしゃいました」でいいが、客先であれば、私と部長が「こちら側」でお客さんが「あちら側」なので、部長が来たのであれば謙譲語を使って「部長が参りました」となる。
 
さて、うちの会社での報告の話に戻る。工場の責任者が経営者である私に報告するという場面である。
その工場の責任者が自分の部下が残業で対応してくれたことを報告したいときに、「(工場の担当者に)残業して作業していただきました」とやってしまうのである。
 
ここでの登場人物は3人、工場の責任者、工場の担当者、経営者である私。
工場の責任者が話をするのだが、この責任者から見ると、その責任者と工場の担当者が「こちら側」、経営者である私が「あちら側」と考えるのが妥当であろう。
そういう構図において、「(工場の担当者に)残業して作業していただきました」という表現だと、自分(工場の責任者)がへりくだることで、担当者を上げることになってしまっている。
おそらくではあるが、補助動詞の「いただく」を丁寧語と勘違いしているのだと思う。
 
まあ、社内の会議であれば、間違ってるなと思うだけで問題ないのだが、社外でこれをやられると恥ずかしい。
実際に、営業の管理職と取引先に行ったときに、その管理職が取引先に対して、「社長に説明をしていただきました」と言ったことがあった。
上の社内会議での報告とまったく同じ構図で、用法としては誤りであるし、ちょっと恥ずかしかった。
 
敬語の使い方がきちんと整理できていない人からすると、「いただく」を使うのは難しいのだと思う。そして、見様見真似で使うものだから、ときどき誤用となる。
だから、対策としては、きちんと敬語の使い方を理解するか、「いただく」は使わないなか、どちらかとなる。
一度理解すればそんなに難しくないので、きちんと理解してほしいとは思うが、そこに興味関心がない人におしえるのもなかなか難しい。
まあ、管理職くらいにはきちんと理解してもらいたいので、今度丁寧に説明しようと思うが、それでもわからないということであれば、仕方ないので「~していただきました」は使わずに、「~してもらいました」と言ってもらうよう話をしようと思っている。
 
ということで、敬語って一度覚えれば簡単なのだけど、覚えられない人にとっては壁は高いと感じるんだろうな、という話でした。